これまで私は数多くの女性から寄せられる悩みにQ&A方式でお答えしてきましたが、長く続いたこの看板連載ももうそろそろ終わりにするときが近付いてきました。みなさん薄々お気づきの通り、「女性としての輝き」だの「ナチュラルなライフスタイル」だの寝ぼけたことを言ってられる限界が、私にも近づいて来たのです。精神的な面だけでなく、肉体的な問題も含めて。私は今、病院のベッドの上です。
この連載をやめさせて頂きたいとお願いしたら、編集部のみなさんは考え直してほしいと引き止めて下さいました。雑誌創刊時からの人気連載だから、ここまで来たらライフワークにしてほしい、何歳になっても美を追求するおばあちゃまとしてまだまだイケる、と嬉しいことも仰って下さいました。残念ながらご期待に添うことはできませんが、今回、〝あなたの可能性は、私たちすべての女性の可能性です!〟という、総力を挙げた58ページもの大特集を組んで下さるとのこと。私自身、最後にできる限り、たくさんのご質問に答えて協力できればと思います。それではまず編集部から、〝私たちがみんな知りたい! 今さら聞けない13の質問〟です。よろしくどうぞ。
Q.自分が世間に持たれていると思うイメージは?
A.①男性にも女性にもモテる、②芯がある、③年齢を重ね、いろいろな経験をし、女性として洗練されている、④家族との約束を大事にする。
Q.三十代の頃のことを教えて下さい。
A.三十歳を過ぎてから女性誌のカバーモデルとなり、様々な取材を受けるようになっていた私は、少し肩肘張っていい女としての発言をしていたかもしれません。三十代の女性たちがみんな、出産育児を経て生き生きしている私を見ていると、自分たちもまだ女として輝けるんじゃないかと希望が持てる、と喜んでくれたことが印象的です。この頃、私はとてもポジティブに、みなさんの理想として生きることに喜びを感じていました。素質も少なからずあったのか、やがて私はいつどこでもご意見番としての役割を求められるようになり、この雑誌で始まったQ&Aが、その地位を揺るぎないものにしたのです。
Q.注目されて辛かったことはなんですか。
A.期待が高まっていました。恋愛を知り尽くした女。洒落の分かる女。真似をしたくなるファッションセンス。気負わないライフスタイル。オープンに語られるセックス観。有象無象。私は必死でした。
Q.これまで一体どれくらいの質問に答えてきたんでしょう。
A.数千? 数万? 私生活で出会う人ですら、初めて顔を合わせて一分以内に悩みを打ち明けずにはいられないみたいでした。この雑誌は二十代から三十代の女性が主な読者ですから、質問のほとんどは恋愛相談です。人の恋愛相談というものはみなさんが思っているより、ずっと個性がないのです。大体が、好きな人から連絡が来ない、浮気されている、セックスしてもらえない、彼氏がクソ、のどれかです。
Q.ご意見番ならではの悩みは?
A.美容室に入っても食事をしていてもペットを散歩させていても、段々と日常ずっとQ&Aをしているような感覚にとらわれていきました。たとえば昼食中にナイフをテーブルの下に落としてしまったとしても、私の頭の中には〝いい女なら自分で拾う? ウェイターに拾ってもらう?〟、道を歩いていても〝いい女なら右へ行く? 左へ行く?〟、セックスの最中も〝いい女ならこのままエクスタシーを迎える? 迎えない?〟
Q.四十代の頃も女性誌の世界では私たちの憧れの存在であり続けました。でもテレビでは少し独特な喋り方や受け答えが、おもしろがられて物真似されたりしていましたね。ご本人は、あのとき本当はどう思っていたんですか。
A.悪意のある誇張でした。舌足らずな喋り方を競い合ったり、私がかつて一度だけ口にしたことのある印象的なコメントを何度も繰り返して笑ったり。きっと私の迷走に誰もが薄々気づき始めていたんでしょう。もう駄目だ、とあのときは正直思いました。世間が自分を憧れの存在にしようとしてくれているのか、ピエロにしようとしているのか分からず、私はとても危ういバランスで綱渡りをしているようなものでした。そのどちらに傾くのか、みんながハラハラと見守っていたと思います。私自身もそうでした。
Q.五十代の頃は?
A.このQ&Aは深い名言なのか、頭のイカれたババアの世迷い言なのか自分でもよく分からなくなっていました。
Q.六十代の頃は?
A.どうでもよくなりました。
Q.七十代の頃は?
A.ババアの世迷い言。
Q.もし二十代の自分に一つ言ってあげられるとしたら、何についてアドバイスしますか。
A.【いい女】の代名詞を背負わされる事の重圧! 二十四時間恋愛のことを生き生きと語らなければいけない緊張感や、胸元をさりげなく出したり、短めのスカートで足を組み替えたり。自分のセックスアピールに、吐き気しか覚えなくなる時期がいつか必ずやってくる。
Q.女性読者の世代を超えた支持をどう思いますか?
A.大勢の人に物真似をされて、私の存在が〝滑稽〟だというムードが広まったとき、女性誌の読者の応援のお陰で、なんとかあの激しい悪意の濁流に飲み込まれずに済んだのです。あのとき、私は小さなイカダの帆に摑まって、何ヵ月も転覆の恐怖を味わいました。どんどんと溜まる泥水は私の口のすぐ上まできていました。夜中に何度もベッドから跳ね起きては、ありもしない口の中の泥をペッペッ。一度はピエロとして生きていくことを覚悟した私が、また何事もなかったかのように─いいえ、それどころかさらに揺るぎない存在となって、この座に踏み留まれるなんて奇跡でした。あなたたちのお陰です。
Q.「ワタシはワタシ」。その揺るがない自信の源を教えて下さい。
A.迷走を重ね、限界を感じていた頃、思い切って自分の物真似をしてみることで、ようやく私というイメージをとらえることができました。そうです。私はもうずっと、みんながやっていたように自分の物真似をしているだけなのです。仕草、喋り方、コメント─「私ならこう言いそう」「私ならあんなことしそう」。私は本当はタップダンサーになりたかった! でも自分のなりたいものなんて、なんの意味があるでしょう。私は空っぽ。人に仕立て上げられて、私は私になった。でも、そのほうが本当ははるかに素敵なことなんじゃないかと思うのです。
Q.今も何かに迷うことはありますか。
A.ありません。あなたたちと生きていくのだと吹っ切れてから、私自身の芯がぶれることはなくなりました。八十歳を越えたこれからも、病院のベッドの上ではありますが、心身ともに【すべての女性の可能性】として頑張っていくつもりです。
それでは女性誌界屈指の名物企画であり我がライフワーク、そしてこれが本当に最後の、読者のみなさんからの恋愛相談にお答えします。
Q.暴力をふるう彼氏とどうしても別れられません。(看護師・28歳)
A.決闘を申し込みましょう。夜中の河原に呼び出して、徹底的に殴り合うのです。理性から解き放たれたあなたの本気のパンチに、彼はきっと我慢できず、石を摑むはず。痛くても我慢のしどころです。あなたなら耐えられる。生死の境をさまよってみて下さい。なるべく生きている気配を消して。彼はきっと怯えて、ろくに確かめもせず、その場を立ち去るはずです。そして、もう二度とあなたの前には現れない。彼がいなくなってから、思いきり喜びに震えましょう。
Q.いつも彼からの連絡を待ってしまいます。(家事手伝い・23歳)
A.私たちはそんなものを待つ前から、もうずっと別のものに待たされているはず。目の前の何もかもが一瞬で消え去って、誰かにハイと手を叩かれ、〝今までの人生は全部噓だった。今からが本番〟と言われることを待ち続けているはず。だからあなたが本当に放っておかれている相手は、彼ではありません。
Q.いい人に出会えません。(会社員・34歳)
A.まずそれが愚かな思い込みであることにいい加減、気がつきましょう。いい人がいないはずなどありません。だってこの世に生まれてきたときは誰もがいい人だったはず。つまり、私たちは自分で勝手に相手を限定しすぎているだけなのです。外国人は考えた? 自分の親ほど歳の離れた人は? 思い切ってレズビアンになりましょう。それでもいい人がいなければ、今度は相手の年齢を
ときに一目惚れしたサドルの持ち主が、あなたの恋路の邪魔をするかもしれません。「おい、お前、何、人のサドル盗もうとしてるんだよ」。でもあなたはそこで決してひるんではいけない。その持ち主にとって、サドルなんて掃いて捨てるほど代わりがいる存在だということを、誠実な言葉で話してやればいいのです。でも自分には、彼しかいないんだということを。あとはこんなときのために常日頃から持ち歩いていた、あんまり好きになれなかったサドルと交換してほしいと頼めば、大多数の持ち主が承諾してくれるはずです。あなたの真剣な愛の気持ちを伝えて下さい。
ようやくサドルと二人きりになったら、あとは恋人たちの自由! 彼とまるで並んで歩いているように鉄パイプの部分を持って、スキップしてはどうですか? 彼は、鹿を見に行きたいというあなたのデートプランを人間の男のように鼻で笑ったりしません。趣味の悪い映画だって、欠伸もせず付き合ってくれます。美術館に出掛けましょう。行楽地へ出掛けましょう。夜景を観に行き、他の恋人たちに負けないぐらい、寄り添いあってロマンチックなムードを作って下さい。
もちろん折りにふれ、「お前、それサドルだぞ」などと心ない人たちから野次が飛ぶでしょうが、恋を盛り上げるための些細な障害に過ぎません。彼はあなたを守るためなら思いきり振り回されてもいい、と思ってくれているでしょうし、それに実際ほとんどの人間の男は、彼の夜の男らしさには敵わないのです。
どうでしょう。
サドルと付き合う素晴らしさが分かって頂けた?
もしも、あなたがこれをきっかけに、素敵なサドルと本気の交際を始めることになったら、私にも是非写真を送って下さい。結婚式の仲人はもちろん、私が引き受けます。
※ 家庭と仕事を両立させながら、常に輝き続ける存在として、最も目が離せない女性─病室での八時間にも及んだインタビューを、凝縮してまとめさせて頂きました。どんな質問にも決して手を抜かない姿勢に感動。本当に最後まで勉強になりました。彼女の答えは、もはや神の声です。(編集部一同)